クロニクル

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「実験思考」 世の中すべて実験??

 

世の中のコンテンツの多くは、先払いが基本になっている。

しかし、ライブも、映画も、本もおもしろかったらおもしろかった分だけ払うようになっても良い。1800円の映画を観た後、500円しか価値を感じない時もあれば、1万円、10万円を払ってもいいような時もある。

 

本書は、本の価格を自由に読者に委ねてみたら、定価で売った場合より儲かるのか?という実験が行われている。

 

実験思考 世の中、すべては実験 (NewsPicks Book)

実験思考 世の中、すべては実験 (NewsPicks Book)

 

 

 

“価格自由”   

本書は価格を読者が決めることができる。

紙の本は印刷原価相当の390円、電子版は0円を支払う。

その後、価格は読者が決め、特設サイトから支払うという仕組みだ。

 

そんな、すべてのビジネスは実験と語る、著者光本勇介の思考とは一体どんなものか。

 

「実験思考」 著 光本勇介

 

光本勇介

株式会社バンクCEO

ストアーズ・ドット・ジェーピー株式会社 創業者/取締役会長

へイ株式会社 取締役

 

誰でも簡単にオンラインストアを作れる「STORES.jp」や目の前のアイテムが一瞬でキャッシュに変わるアプリ「CASH」、あと払い専門の旅行代理店アプリ「TRAVEL Now」など次々と世の中にインパクトのあるサービスを生み出す起業家。

 

 1.選択と集中

 

学生時代は翻訳のクラウドソーシングや留学斡旋、起業してからは自分だけのシューズやワンピースが作れるサービスなど、5つの事業を5人で同時に

やっていたという光本さん。

会社をやり始めてからは、貯金が2万になったこともあります。

起業してからは何年もずっと「低空飛行」でしたが、「みんなが使ってくれるサービスを作りたい」という思いを抱いていました。

 

そんな中、「STORES.jp」が誕生します。当初は、低空飛行にも慣れてきて、「食べていくためにもう一つ事業を作ろう」というイメージで作った事業。STORES.jpの当初の利益目標は月20万円ほど。

 

しかしSTORES.jpは、リリースしてすぐ世の中が騒いだ。

 

「自分の店を持てるらしいよ」ということでたくさんのリツイートがされた。

今までにない感触を得たことで、起業家としての成功体験はこれが初めてだと語る。

 

光本さんはSTORES.jpの成功を確信し、事業をSTORES.jp一つに集中すると判断し、他の事業を売却しました。

 

 

2.すべての人を信じるサービス

 

発想の転換一つで世界の景色はガラリと変わります。

みんなが上から見ているときに、下から覗き込む。

みんなが当たり前に思っていることを、ゼロベースにして考え直すのが光本さんの思考。

 

ほとんどのビジネスは「すべての人を疑う」という前提で成り立っています。

 

消費者金融の「むじんくん」のようなボックスでも、すぐに貸してくれるわけではない。いろいろな情報を入力して、免許証を提示する。そのような情報をベースに「この人にはいくら貸せるか」という判断をしています。

 

駅の自動改札機もそうです。改札機は一台650万~1500万するそうですそれが人駅にいくつもある。単純に「切符を買っているかいないか」という判断をするために、莫大な資産がかかっています。

 

もし、「すべての人を疑う」という前提をひっくり返すことができたらどうでしょう。「すべての人を信じる」サービス、つまり「性善説」に基づいたサービスを2017年に光本さんはリリースします。

 

目の前のアイテムが一瞬でキャッシュに変わる「CASH」の誕生

 

「現代版の質屋」とも言われるのが「CASH」というサービス。

ユーザーは目の前のモノをパシャッとスマホのカメラで撮ると、金額が表示されて瞬時に口座に振り込まれます。

その時点で「SMS認証」以外の審査や手続きをする必要はなく、気軽にユーザーは現金を得ることができます。もちろん、ユーザーは写真で撮ったものをCASHに送る必要があります。もし、できない場合は2ヶ月以内に手数料とともに返金しなければいけません。

 

リリース後、爆発的に使われたCASHは24時間で3.6億円をばら撒きサービスを止めざるを得なかった。しかし、1億円をばらまいてみたいというぶっ飛んだ思想をサービスに落とし込むことで、世の中の真理が見えることができた。

 

つまり、「実験家」としてアイデアや仮説を世に問うことで、人間を知ることができる。こんなに面白いことはない。これこそ、本書のタイトルにもなっている「実験思考」です。

 

3.「市場選択」と「タイミング」

 

光本さんが普段から意識していることは、「普通の生活者」でいようとすること。

そうすることで、企業経営者が忘れてしまうような、当たり前の感覚を持つようにしているそう。

具体的には、「iTunesのトップ10」をダウンロードしたり、ヤフーニュースのトップページをチェックしていたり。流行りやメジャーなサービス、新しいものに触れることで、「マスの人たち感覚」を知る。

 

そのように過ごしながら、アイデアメモを普段から蓄えてるという。

具体的には、過ごす中で、「こうなったら便利なのに」、「こうしたほうがいいのに」「なんでこうなっているんだろう」と言ったことを「僕ならこうするのな」メモに書き溜めるそうです。

 

ビジネスは「市場選択」と「タイミング」

 

新しすぎてもマスが追いつく環境が整っていないとうまく行きません。光本さんは、カーシェアリングサービスを10年前にリリースしました。今でこそ、UberAirbnbのようなサービスが当たり前のように使われていますが、当時はほぼ誰も理解してくれなかった。

 

どれだけ「未来を見通す目」が正しくても、事業を出す「タイミング」が重要だということです。

 

サイバーエージェント藤田晋さんも「新しすぎることをやると人がついてこないから、できるだけ業界の人が『いまさら?』というような方がいい」と言っています。

 

つまり、「時代の半歩先」くらいのものがちょうどいい。

普段から、インターネットに限らず幅広い業界の「ぼくならこうするのにな」というアイデアをストックしておいて、「市場選択」と「タイミング」が整ったときにフルスイングする。

 

2018年は「旅行の年」というテーマを決めていて、その年にリリースした「TRAVEL Now」というアプリをリリースし話題を集めました。

 

2019年は「不動産の年」になると思っていて、今は色々と仕込んでいる段階だそう。今後の「実験」にも注目していきたいです。

 

まとめ

 

最近は「性善説」と「思考停止」という二つの視点から全業界を見つめ、「どんなサービスができるかな」と毎日を過ごしているという、光本さん。

 

世の中にないものを作りたい。世の中にインパクトを与えたい。

「狂っている」とまわりに思われたい。

世の中にないもので、「狂ってるよね」と言われるものこそ、最高の「実験」です。

 

余談ですが、2018年STORES.jpは決済サービスを手がけるCoineyと経営統合をしてhey株式会社を設立。光本さんは取締役に就任。

代表取締役には、私が最も尊敬する経営者の佐藤裕介さんが就任しています。

 

光本さん含め、今後のhey株式会社にも注目したいです。